Shitennoji University

認知症とは、脳の働きの変化によって記憶力や判断力などが低下し、日常生活に影響が生じる状態です。超高齢社会を迎えた日本では、内閣府「令和7年版高齢社会白書」によると、2040年には65歳以上の高齢者は約584万人となり、約7人に1人が認知症になると推計されています。
看護学部では、たとえ認知症になっても、自分らしく生きていくことができる「認知症にやさしい街づくり」や認知症になることを怖がらなくてよい社会になるよう様々な授業に取り組んでいます。
今回は、誰にでも関わる身近な社会課題として認知症の理解を深めるため、看護学部で実施した「認知症体験演習」についてご紹介します。
今回の演習では、「まほろば倶楽部 ~奈良若年性認知症・MCIの人々の集い~」代表を務められている平井正明氏を講師にご来学いただきました。ご本人も若年性認知症・MCI(軽度認知障害)の当事者で、まずは認知症当事者としてのご経験や、認知症患者支援の在り方について講演いただきました。
平井氏は56歳の時に、頭部への違和感や仕事効率の低下を自覚し、病院を受診した結果、若年性認知症・MCI(軽度認知障害)と診断されました。診断後は、不安や戸惑いを抱えながらも、若年認知症サポートセンターの存在を知り、ピアサポート活動に参加。現在では、同じ悩みを抱える方々と交流しながら、認知症への理解を広める活動にも積極的に取り組まれています。
講演では、「楽しいこと、やりたいことをたくさんしよう!」という言葉が印象的であり、認知症の方を支える際には、“できないこと”に目を向けるだけでなく、“できること”や“その人らしさ”を大切にする支援の重要性について学ぶ機会となりました。

また、同じく認知症当事者としてアルツハイマー型認知症と診断された丹野智文さんの講演では、思い通りに体や思考が追い付かないもどかしさや、周囲の固定観念による支援に対する複雑な思いなどを、ありのままの言葉で学生たちに伝えていただきました。
丹野智文さんは、38歳で若年性アルツハイマー型認知症になりましたが、現在も仙台でサラリーマンとして勤務されています。1年間に約190回の講演活動をこなしつつ、認知症の人とともに生きることの大切さや自らも当事者のサポーターとして日本全国から、韓国や台湾、オーストラリアなど世界を駆け巡っています。2024年には、映画「オレンジランプ」の主人公にもなった方です。

講演を通して学生たちは、教科書や授業だけでは学ぶことのできない、認知症当事者の不安や葛藤、そして周囲からの理解や関わりの大切さについて深く考える機会となりました。
次に、自分が認知症になった場合を想定して、VRゴーグルを使用した体験演習を行いました。VR映像では、幻視や周囲の音の聞こえ方、人混みの中で感じる不安感などを疑似体験でき、学生たちは認知症の方が日常生活の中で感じている戸惑いや恐怖、不安を体感しました。(協力 ㈱シルバーウッド)


特に、幻視を見る体験を通して、幻視が見えている患者さんの行動は「おかしな行動」ではなく、「見えているものに対する自然な反応」であることを実感。認知症の方の言動を否定するのではなく、その人が感じている世界を理解し、安心できる関わりを行うことの重要性を学びました。
演習後の振り返りでは、
「VR体験や認知症当事者の講話を通して、認知症の人が感じている不安や混乱、現実とは異なる見え方を具体的に理解することができた」
「これまで抱いていた偏見や思い込みに気づき、認知症という病名だけで人を判断するのではなく、一人の人として尊重することの大切さを学んだ」
「できることまで奪うのではなく、その人の力を生かしながら必要な支援を行うことや、相手の立場に立って寄り添う関わり・声かけが重要であることを理解した」
といった意見が多く聞かれ、学生たちにとって貴重な学びの機会となりました。