「もともと人間そのものに興味があった」と話す藏口先生は、実験心理学と知覚・認知心理学の研究を行っています。「ヒトとは何か？」という素朴な問いを出発点に、文理を問わない幅広い学びの領域と、仮説・検証を重ねて深く掘り下げていくアプローチで、心理を突き詰めていく授業や考え方についてお聞きしました。

顔の魅力をさまざまな視点で眺める

私の専門は実験心理学や知覚・認知心理学と呼ばれる研究領域です。ヒト全体に共通する感じ方や考え方の傾向を、心理学実験を通して明らかにしようとする学問です。もともと「魅力的な人とはどのような人なのか」に関心があり、とくに「どんな顔を魅力的に感じるのか？」「なぜ魅力的と感じるのか？」という疑問が研究の原点となりました。

「魅力的な人」のイメージは人それぞれです。多くの要素や特徴が関わっていることから、魅力をできるだけシンプルに捉えようと、特に「かわいい」「美しい」という形容詞を用いた評価に着目して検証を実施してきました。同じ顔でも、「美しさ」は周辺視野で顔を見比べて判断しやすいですが、「かわいさ」では判断しにくいという結果も出ています。意識的な評価では「かわいさ」と「美しさ」は似たような評価として現れやすいのですが、視覚入力の条件によって評価のしやすさが異なる点は興味深いところですね。

海外では赤ちゃんには「かわいい」を使いますが大人には使わない傾向があります。「かわいい」はもともと、「お世話してあげたい」という気持ちを呼び起こすと言われており、大人には使いにくいことが理由になっているのかもしれません。一方、日本では大人にも普通に用いられます。「かわいい」は、「近づきたい」という気持ちを生じさせるとも言われており、他者とのかかわりを促進する観点からみると大人に対してでも十分に使用できるのだと思います。私たちの日常的な言葉遣いにも、人の考え方や感じ方を探る糸口があり、人の認知メカニズムについて仮説を立てながら一つずつ検証していくことができます。

人の本質を深く知るために心理学の道へ

小さいころから人を理解しようと観察することが好きでした。「この人はこう言うと喜ぶ」「こういう場面だと怒る」といった反応の法則を探すのが好きだったと思いますね。自分が大学生のときには、社会学か哲学か心理学かという進路で迷いました。いずれも人の本質を深く知ろうとする点では共通していると思うのですが、やはり自分には人の感じ方や反応を数値化して考える学問が向いていると思い心理学を選びました。「仮説があって、検証があって、結果が出る」というプロセス自体が性に合っているんだと思います。また、通っていた高校は文系・理系のコース分けがなく、どちらも幅広く学んでいたので、どちらかに分けられるより両方を行き来する学問である点もしっくり来たんだと思います。

大切なのは、苦手意識を乗り越える好奇心

授業では、心理学基礎実験Ⅰ・Ⅱ、心理学実験法、認知心理学、対人関係の心理学を担当しています。心理学基礎実験では実験課題を実際に実施したうえで、その結果を実験レポートとして正しく書く力を育てます。認知心理学では記憶や感情だけでなく、感覚や知覚、注意、目の仕組みなどもバランスよく学びます。
 
心理学はカウンセリングや臨床の印象が強いかもしれませんが、実験も行い、統計も扱う学問です。文系と理系の両方の要素があるからこそ、どちらかを拒まずに視野を広げていく挑戦の姿勢を育てたいと考えています。統計を扱う「心理学実験法」の授業では「ベストティーチャー賞優秀賞」をいただきました。エクセルの利用や計算課題が多く、難易度は高いのですが、苦手意識があっても最後まで食らいついてくれる学生が多かったですね。最初は苦手でもやってみると意外にできることが増えるという実感が、自信と好奇心につながっていくと思います。

自分の好きなことと心理学を結ぶ

ゼミについては自分の興味や関心がスタート地点です。私の研究領域に近い「顔の魅力」に関連したテーマに取り組む学生もいますし、「スポーツのプレースタイルが性格や自信の有り無しとどのように関連するか？」のように自由な発想でテーマを設定して研究をする学生もいます。ユニークなところだと、お笑いの「漫才の衣装」に着目し、「どういった衣装を着るとより面白く見えるか？」ということをテーマにしている学生もいます。とても多彩で面白く、「私にはこの着眼点はなかったな」みたいなことを気づかせてくれるテーマもたくさんあります。途中経過を聞いていてもワクワクするので、ゼミの最後の発表を見るのがすごく楽しみですね。