作品分析の時、私は「初見の直感」を何よりも大切にしています。ただ、自分のペースで読めるマンガとは違って、映画や舞台、能・狂言では、気になる部分があっても、場面がどんどん進んでいきます。内容の一部を忘れてしまうことがあるので、いつもノートを持ち歩くようになりました。舞台の最中の暗闇の中でも、周囲に迷惑をかけずにメモを素早く取れるんですよ。みんなから「闇ノート」と呼ばれていて(笑)。清書し直した「研究ノート」と、メモの「闇ノート」は、いつもセットで持ち歩いています。
文学部
マンガやアニメを学問として研究し、作品への理解を深める植先生。「幽体よりも、物理的にさわれるタイプの魔物が好き」「いつでもどこでもアイデアを書き留め、上映中の暗い映画館でもメモをとるのが得意」。先生はどこか不思議な空気感をまとい、マンガ愛、そして研究愛を語る。先生の研究対象もちょっと不気味だったり、怖いものが出てきたりする作品だ。なぜ、それほどまでに不思議なものに惹かれるのか、研究をはじめたきっかけやその魅力について聞いた。



作品分析の時、私は「初見の直感」を何よりも大切にしています。ただ、自分のペースで読めるマンガとは違って、映画や舞台、能・狂言では、気になる部分があっても、場面がどんどん進んでいきます。内容の一部を忘れてしまうことがあるので、いつもノートを持ち歩くようになりました。舞台の最中の暗闇の中でも、周囲に迷惑をかけずにメモを素早く取れるんですよ。みんなから「闇ノート」と呼ばれていて(笑)。清書し直した「研究ノート」と、メモの「闇ノート」は、いつもセットで持ち歩いています。

植朗子先生の著書
【左】鬼滅月想譚 『鬼滅の刃』無限城戦の宿命論(朝日新聞出版)
【右】鬼滅夜話 キャラクター論で読み解く『鬼滅の刃』(扶桑社)
最近はファンの「考察」がブームになっていますよね。でも、マンガの研究には、思いつきや感想だけではなく、解釈の根拠を明確に示す必要があって。さまざまな角度から分析します。たとえば『鬼滅の刃』に出てくる吸血鬼のような「鬼」。ファンの間では、この「鬼」が『ジョジョの奇妙な冒険』のDIO(ディオ)という吸血鬼に似ていると言われています。ただ、似ている点を指摘するだけでは研究にはなりません。西洋的な吸血鬼の要素を見比べたりしながら、両作品の共通点とオリジナリティを丁寧に読み解いていきます。
時には別領域の専門家に話を聞くこともあるんですよ。『鬼滅の刃』に「禰󠄀豆子」というキャラクターがいますが、私は植物のネズ(杜松)とネズコ(黒檜)に由来する名前だと思っていて。実在する植物の特性と伝承がからみ合っているケースです。こういうヒントを探るため、植物学者と意見交換したりもしています。



子どもの頃、通っていたピアノ教室の本棚に並ぶ『北斗の拳』や『キン肉マン』を読むのが、当時の私の楽しみでした。そこからバトルマンガにハマったんですが、バトルマンガには、死んだはずのキャラクターが生き返る展開がよく見られます。子ども心に、なぜ生き返ることができるのか不思議でした。物語における「蘇生」に関心をもった最初のきっかけです。

そして、もうひとつ、強烈なインパクトとして残っているのが、小学校2年生の頃の出来事。友達から、お祖父さんが大切に飼っていた鳥の亡骸を、自宅の冷凍庫でずっと保管しているんだ、という話を聞きました。動物が亡くなったら埋葬をするものだと思っていた私は、大切な存在の亡骸を手放すことができない深い愛情に心を動かされると同時に、「これは死んだものに対する執着なのかもしれない」と感じたことを、今でもよく覚えています。
こうした「生と死の境界」に対する興味や、「死後に人は何を思うのか」という問いが、今の研究につながっています。子どもの頃は集中しすぎてよく母にマンガを捨てられましたが、研究者になった今は怒られませんね。最近も集中するとまばたきを忘れがちなので、娘から「ママ、怖い…」と言われることがあります(笑)。マンガやアニメは学問にはならないと思われがちですが、決してそんなことはありません。みなさんにも、周囲の声に左右されず、自分の好きなことを探求してほしいです。

伝承文学研究の手法を用いて、マンガやアニメのモチーフ分析を行っています。これまで「怪異」や「不思議」をテーマとする昔話や神話を研究対象としてきましたが、現代のポピュラーカルチャーには、これらの民間伝承の影響が見られます。マンガとアニメの文化史的位置づけについて考え、作品をより深く理解するために、ともに学んでいきましょう。