Shitennoji University

2027年4月、社会学部 人間福祉学科 に健康スポーツ専攻が誕生します。新たに教壇に立つのは、新体操選手として順調な時と思い通りにいかない時の両方を経験し、スポーツ科学の研究者となった橋元真央先生。併せて『指定クラブ制度』として創設される新体操部では監督・顧問に就任します。新しい専攻で学べることや、先生がめざす新体操部の姿について、これまでの歩みとともに伺いました。
指定クラブ制度とは、高校生活で全力をあげ取り組んできた競技生活を大学でも継続できるよう、外部専門指導者を招聘するなどして高水準の競技環境に加え、学業との両立や卒業後を見据えたキャリア形成サポートといった支援体制を整えています。

私の研究をひとことで言うと「正しい努力」を科学することです。運動が得意な人の「コツ」はとても感覚的で、言葉だけでは伝わりにくいですよね。例えば「グッと踏んで、パッと跳ぶ」と言われても、できない人には動き方が分かりません。
でも運動のコツは本来、ロジカルに説明できて、多くの人に応用できるもの。私は新体操の演技分析をはじめ、映像や数値データで動きを捉えながら、運動実践者の思考を重ねることで、感覚を「見える化」する研究に取り組んできました。動きが「正しく」観察できるようになると、「なぜそうなるのか」「どう練習すればよいのか」を、人に伝えられるようになるんです。
もうひとつのテーマが、「“ヒトの美しさ”とは何か」の解明です。新体操やフィギュアスケートのような採点競技は美しさも点数になります。でも、同じ技をしても、美しく見える人と、そう見えない人がいる。その差はどこにあるのか。動きの計測データと、見る人の印象評価を突き合わせながら解き明かしていきます。
「コツ」も「美しさ」も、センスのある人だけのものにしない。科学の力で紐解いていけば、誰もがスポーツを楽しみながら「正しい努力」ができると考えています。

この研究の原点は、私自身の競技経験にあります。
新体操を始めたのは小学校3年生の時。4歳からモダンバレエを習っていて、スーパーで音楽が流れると自然と踊り出してしまうくらい、踊ることが大好きな子どもでした。勝敗がはっきりしている、よりスポーツに近いものに挑戦してみたくなり、父が体操競技をしていた縁もあって、オリンピック選手を輩出してきた地元の強豪の新体操クラブへ移りました。
ただ、私はとても不器用で、体も硬く、新体操には「向いていない」とされるタイプだったんです。だからこそ「何が違うんだろう」「どうすればできるんだろう」と、誰かと比べるのではなく、自分の内面と向き合い、納得できるまでとことんこだわって試行錯誤する。この積み重ねが現在の研究につながっています。
高校卒業後はスポーツ推薦で、大学新体操の頂点に長く立ち続ける強豪大学へ進学しました。ところが環境に馴染めず、心身のバランスを崩してしまって。競技と大学の両方から離れることを決め、1年で関西に戻り、8ヶ月間予備校に通って大阪教育大学に入学し直しました。
大きな転機は、大学で出会った恩師のひと言です。「せっかく指導を学ぶなら、もう1度競技者として、どんな支えが必要なのかを選手の立場で学んではどうか」。そのアドバイスのおかげで、大学3年生からの2年間はクラブ指導の傍ら競技にも復帰。何を目標に、どこまでできるのか。自己分析を楽しみながら、全日本インカレに出場することができました。教わる側と教える側、その両方を行き来した2年間を研究者や指導者として生かしていきたいと思っています。

健康スポーツ専攻のユニークさは体育系の学部ではなく、福祉を学ぶ人間福祉学科の中に設けられることです。福祉というと介護を思い浮かべる方が多いのですが、本来は子どもから高齢者まで、すべての人の幸せを考える学問。スポーツと福祉を結びつけた研究はまだまだ発展途上だからこそ、これから大きく広がっていく分野だと思っています。
専攻は、スポーツイベントの企画や運営を学ぶ「スポーツマネジメントコース」と、心身の健康づくりを支える力を養う「スポーツウェルネスコース」の2つ。興味に応じて両コースの授業を組み合わせて学ぶこともできます。スポーツ栄養学やスポーツ心理学、コーチング理論など、私が大切にしてきた「多角的に人を支える」という考え方が、そのままカリキュラムになった専攻です。
スポーツに打ち込んでいると、自分の競技経験にどのような価値があって、将来にどうつながるのかを考えることは、つい後回しになりがちですが、スポーツで得た経験は競技のためだけでなく、誰かの健康や幸せを支える力になります。それを学生のうちからじっくりと考えられるのが、健康スポーツ専攻の大きな魅力です。
オープンキャンパスには、子どもの健康や運動療法に関心を持つ人や、高校まで陸上を続けて「大学でも身体を動かしながら学べますか」と尋ねてくれた人など、さまざまな高校生が来てくれました。異なる関心や経験を持つ学生が一緒に学び合うことで、想像もしていなかった化学反応が起きると思っています。

新体操部は、本学の指定クラブ制度として創設されます。めざしているのは、科学的で合理的な方法によって、競技力と指導力を健やかに育てていくこと。2027年4月には専任コーチも就任し、栄養学や心理学など各分野の専門家たちと連携した指導体制と練習環境をめざして、少しずつ整えているところです。
新体操は、同じ動きを何度も繰り返しながら身につけていく競技です。だからこそ、まず正しい知識を学んで、その上で練習を積み重ねる。そうすれば上達しやすくなりますし、ケガを防いで、心と体をすり減らさないことにも繋がります。努力が、自分の健康や幸せを犠牲にするものになってはいけないと思うんです。
もうひとつ願っているのは、コミュニケーションが活発なチームです。指導者と学生が決して一方通行にならず、何気ない会話も、真剣な話し合いもできる関係が理想です。さまざまなクラブで育った学生が集まるからこそ、私の考え方だけに染めるつもりはありません。学生が何を求め、何に喜び、何に悩んでいるのかを理解して、そっと寄り添う。そうした福祉の視点も、新体操部で一緒に学んでいければと願っています。
ゼロから部をつくる経験は、めったにできるものではありません。競技経験の有無は問いません。学ぶ意欲のある学生にぜひ来てもらえたら嬉しいです。

私の目標は「みんながハッピー」です。スポーツの幸せは、競技で勝つことだけではありません。体を動かす楽しさを知ること、誰かの健康を支えること、地域のスポーツの場をつくること。福祉の視点でスポーツを捉え直すと、幸せのかたちはぐっと広がります。
とはいえ、社会全体をいきなり幸せにすることはできません。私が大切にしている言葉に「Think Globally, Act Locally」があります。「みんなの幸せ」という大きな目標を見据えながら、まずは目の前のひとりを支えることから始める。その積み重ねの先に、「みんながハッピー」な社会が実現できると信じています。
本学は、その一歩を踏み出すのにぴったりの場所。自然豊かで穏やかな空気の流れるキャンパスは、学びに向き合うにはうってつけの環境です。そして、自分のやりたいことを発信すれば、周囲がサポートしてくれる校風があります。新たな一歩を一緒に踏み出せる皆さんに会えることを、心から楽しみにしています。

幼少期から新体操を始め、中学・高校・大学時代に全日本選手権に出場。大学と大学院で体育・スポーツ分野のコーチングを学び、博士課程では新体操の演技の「美しさ」を科学的に捉える研究に注力。京都光華女子大学や大阪教育大学の教員を経て2026年4月より現職。三田市体操協会理事長。
担当講義: ウェルネス概論、スポーツサイエンスコミュニケーション、フィットネス・エクササイズ演習など
研究分野:身体教育学、スポーツ科学、健康科学、新体操、身体表現