命の現場と向き合う力をどう育てるか?|看護学部 吉川 有葵先生インタビュー

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吉川先生は約9年間の臨床経験を経て教員となり看護の学びを支え続けてきました。本学では療養生活を支える技術や方法を学ぶ療養生活支援技術演習や、臨床現場を再現した環境で知識と技術を身につけるシミュレーション教育などを担当しています。ドラマで描かれるような「華やかで使命感にあふれる存在」だけではなく、現場のリアルに向き合いながら、他人も自分も思いやることができる看護師を日々育てています。

より多くの患者さんと向き合うための選択

私が担当しているのは、急性期・周術期にある患者さんと、そのご家族に対する看護です。手術は患者さんの人生において、とても大きな出来事です。その後の生活を大きく変えなければならない場合もあり、患者さんがこれからの人生を健やかに過ごせるよう支援することが看護師の役割だと考えています。救急搬送で患者さんの意識がないときは家族が意思決定を担いますし、命に関わる状況では家族の心も不安定になります。患者さんとご家族を一緒に捉えてケアする視点を学生に伝えています。

私自身も看護師として、主に手術室や腎移植外来などで約9年間働いてきました。臨床の現場にいたとき、「本当にこの対応でよかったのだろうか」「もっと早く気づくことができなかったのか」と自問自答することも多かったんです。その時にドクターから「もっと急変対応の勉強してもいいんじゃない?」というアドバイスをもらい大学院へと進学しました。臨床で働いていた頃、「自分一人が生涯で直接関われる患者さんの数には限りがある」と感じていたこともあり教育・研究の道を選択。四天王寺大学には2019年の看護学部の立ち上げから関わっています。

教員全体でレベルを底上げするシミュレーション教育

看護学部としては、実際の医療の場面を想定した環境づくり、その中で学ぶ「シミュレーション教育」にも力を入れています。医療の進歩に伴い、卒業時に求められる実践能力は高度化している一方、コロナ禍の影響も含め、臨地実習で侵襲の伴う技術を経験できる機会は減少しています。そのギャップを埋めるため、大学の中でシミュレーターや設定されたケースを用いて、できるだけ現場に近い環境で学べるようにしています。これは、働き始めたときのリアリティショックを和らげる意味でも、基礎的な技術を保障する意味でも重要だと考えています。

四天王寺大学の看護学部では、教員全員がシミュレーション教育の研修を受けています。これは全国的に見てもあまり多くない事例かと思います。シミュレーション教育に関する知識や考え方について、教員全員が共通認識を持ち、安全かつ効果的に教育が行えるようにすることを大切にしています。

また、チームでコミュニケーションを取りながら行動する力など、ノンテクニカルスキルはやはり現場で磨かれやすい部分でもあります。ただ、シミュレーション教育の中でもコミュニケーションやチームワーク、状況認識などを意識的に組み込むことで、こうした力を育てるプログラムづくりにも試行錯誤を重ねて取り組んでいるところです。

患者さんとの再会で知った学生の看護

臨床で働いていた頃は、一人の患者さんを見られる時間は勤務の中だけで、退院までに直接関われるのは1日だけ、ということもありました。一方、学生は実習で2週間同じ患者さんを受け持ちます。つまり患者さんの変化を一番近くで見ているのは学生です。その中で「この患者さんには、こういうケアが必要だ」と自分で考え、実践している姿を見ると、本当にうれしくなります。私はあくまで学生の思考をサポートする「脇役」ですが、「いい看護をしているな」「伝えてきたことが、ちゃんとつながっているな」と感じる場面が多くあります

先日、数年前に実習中の学生が受け持っていた患者さんと病院で再会しました。その患者さんが、当時の話をしてくださったんです。「手術が初めてでとても不安だったんだけど、学生さんがいろんな話を聞いてくれた」「学生さんが退院指導をとても丁寧にしてくれた」と。数年を経て教員としてのやりがいが患者さんを通じて帰ってきました。四天王寺大学に来てから、こうしたエピソードに触れる機会が増え、「学生と患者さんが本当に良好な人間関係を築けている」と感じることが多くなったことは誇らしいことですし、心底うれしいですね。

いつか堂々と「最終講義」をするために

私は大学院時代からお世話になった先生方の最終講義を何度も見届けてきました。長年の教育・研究の歩みを語る先生方の姿は本当に清々しくて格好よく、「看護という学問を築き上げてきた先人がいるから、今の看護があり、自分がいるのだ」と強く実感する機会になっています。その思いや積み重ねてこられたものを、次の世代につないでいくことが、自分の役割だと感じています。いつか自分も、教員としての人生の集大成である最終講義を、恥じることなく迎えられるように。そのためにも、日々の教育と研究に真摯に向き合いながら、国内でも海外でも活躍できる看護師を、一人でも多く輩出できればと思っています。

WRITER
吉川 有葵 / よしかわ ゆき

四天王寺大学文学部 看護学部 准教授
看護師として、主に手術室、腎移植外来などで勤務。その後、大学院を修了し、大学教員に。

担当講義:療養生活支援技術演習Ⅰ、療養生活支援実習Ⅰ(急性・回復期)、統合実習、課題研究 など
研究分野:臓器移植患者の妊娠・出産、看護学生のノンテクニカルスキル


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四天王寺大学:文学部 看護学科
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