物語に潜む魅力をポップカルチャーから読み解く|文学部 植朗子先生インタビュー

この記事をシェア
LINE
Facebook
X

文学部日本学科でポップカルチャー(マンガ、アニメ)を研究する授業では、『鬼滅の刃』をはじめ現代の人気作品を取り上げながら、伝承文学の手法を使って作品への理解を深めています。授業を担当するのは『鬼滅夜話』『鬼滅月想譚』を執筆された植朗子先生。今回は植先生がポップカルチャーを好きになったきっかけや授業の中身、学びに向き合う思いについてお話を伺いました。

好きから始め、難しさを経て、さらに好きを広げていく

アニメやマンガなど、学生にとって身近なポップカルチャーが対象になっていることもあり、「好きな作品を学べる」と期待して参加してくれる学生が多いですが、いざ授業を受けると「想像よりも難しかった」とよく言われます(笑)。ただ、分かりやすくするために授業の水準を下げることは、学生にとっても望ましくないと考えているので、なるべく丁寧に説明することを大切にしています。そうすると、みんな一生懸命ついてきてくれて、授業を重ねるごとに理解が深まり、課題やコメントペーパーの内容もグッと良くなっていきます。
例えば現代の物語にも、古い神話や文学からモチーフを引用している要素がたくさんあります。理論を学んだ上で作品を見た生徒からは、「この着想はあの話からきてるんじゃないか?」といった声も挙がるようになり、教える立場としてもとても嬉しく感じます。

必死さを見せることも、教えることの一部

一部の課題は、あえてデジタルではなく手書きにしたりしてますね。AIに任せず、その人自身の本音や個性を大切にして書いてほしいからです。授業を通じて、学びだけでなく人間的な成長も感じ取ってもらえたらいいなと思っています。私自身も不器用で、授業と執筆活動を両立するのはいつも苦労しています。でも、その姿も見て欲しいですし、学生に伝わればいいなと感じています。
「必死さを知る」というのは、大切なことだと思うんですよ。命を削って本を書いている姿勢だったり、真面目に取り組む人のことを笑わないという姿勢だったり。誰かが真剣に取り組む姿から、何か感じ取ってくれたら嬉しいですね。

「怖い」という感情が研究の原点

子どもの頃からホラーやバトルものといった少し怖さのある物語が好きでしたし、「恐怖」「怪異」への関心が伝承文学への出発点です。特に興味を持ったのは、「なぜ人は命を失った途端に“怖いもの”として扱われるのか?」という人の心の変わり方。私の研究の中心になっている伝承文学には、幽霊や鬼を中心に“分からなさ”を抱えた存在がよく登場します。そうした「異質・異形なものとは敵対するべきなのか?」「それとも共存するべきなのか?」といったテーマを紐解きながら、物語を読み解いていくことを授業の題材にもしていますね。
世界的に見ても、ホラーへの興味・関心というのは信じたいものに揺らぎがあるとき高まる傾向があります。奇妙な物語やファンタジーは、閉塞感があるときにすがりたくなるような魅力があふれていると思います。

大好きな文学の魅力をもっと世の中へ届けたい

私はいわゆる大衆文化が大好きです。今ではマンガやアニメの地位もかなり向上したと思いますが、もっと広く社会に認められる存在になってほしいと願っています。
私は一次創作はできませんが、研究や執筆といった得意な領域を通じて、本当は素晴らしいのに埋もれている作品にスポットライトを当てたり、意図しないレッテルを貼られている作品の見方を変えたりすることはできます。

▲著書:鬼滅夜話 キャラクター論で読み解く『鬼滅の刃』(扶桑社)
▲著書:鬼滅月想譚 『鬼滅の刃』無限城戦の宿命論(朝日新聞出版)

文学という分野は、ときに「本当に必要なのか?」と問われることもあります。でも現実とかけ離れた物語だからこそ、私たちを救ってくれる唯一のものになり得るのかもしれません。自分が好きなマンガやアニメという文化を、これからも大切に守っていきたいと思っています。

WRITER
植 朗子 / うえ あきこ

四天王寺大学文学部 日本学科 准教授
神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程後期課程修了。博士(学術)。ドイツ語圏の民間伝承、とくにグリム兄弟『ドイツ伝説集』における「怪異」をテーマに研究。その後、民間伝承とポップカルチャー(マンガ、アニメ、映画)における「怪異」のモティーフについて取り扱うようになった。webニュース「AERA DIGITAL」でマンガ『鬼滅の刃』を中心に、作品解説の記事を不定期連載中。おもな著書に『鬼滅夜話 キャラクター論で読み解く『鬼滅の刃』』(扶桑社、2021年)。新刊『鬼滅月想譚 『鬼滅の刃』無限城戦の宿命論』(朝日新聞出版、2025年)が7月に発売。

関連リンク
四天王寺大学:文学部 日本学科
  • ホーム
  • 教育学部 佐藤美子教授インタビュー|理数教員免許が取れる!西日本私大初の教育学部