文学部 日本学科 講師
今田 健太郎 先生
Kentaro Imada

今田先生はバイオリンの演奏経験があり、数年前まで無声映画の伴奏も行っていた人物。最近は授業で木魚を叩いたりもしているのだとか。根っからの音楽好きに思えて、「好きな音楽は何ですか?」と聞くと、先生はしばらく考えこみ「本当は音楽好きではないのかも」と笑った。音楽好きではない先生が本当に好きなものとは何なのか。音楽学を志したきっかけや研究内容について語ってもらった。

5歳からずっとバイオリンをやっていたんですが、いざ高校生になり「将来はバイオリンを仕事にしたい」と言うと親は猛反対。世間の多くの人が音楽家に対して憧れと反発心みたいな感情をもっているんですよね。「音楽で食べていけるなんてそんなに甘くない」と。今なら親の気持ちも理解できますが、当時の私にとっては「今まで練習に励んでいたら褒めてくれていたのに」と理不尽に感じましたね(笑)。

そんな経緯があり、「せめて音楽を勉強したい」と大学では音楽学を専攻。まずは、自分にとって身近なバイオリンがどのように日本に入ってきたのかを調べはじめました。すると、無声映画の伴奏に用いられたのが最初だとわかったんです。そこから、演劇や映像メディアなどの音楽的演出に興味をもち、現在まで研究に取り組んでいます。例えば、日本のアニメ作品って音楽が常に流れているわけではなく、場面に応じていくつかの音楽が使い分けられていますよね。けれど、アメリカのアニメ作品の場合は音楽が切れ目なく流れっぱなしだったり、ミュージカルのように主人公たちが歌い出したりするんです。そんな日本と欧米の音楽感覚の違いについても研究しています。

研究の面白さを感じるのは、漠然としていた自分の疑問を上手く言語化できた時です。先ほどの日本のアニメ作品の音楽演出の話も、私は当初「場面に応じて音楽を使い分ける文化はどこから生まれたものなんだろう?」と疑問を抱いていたんです。その疑問について考え続けていたある日、ふと歌舞伎のお囃子がルーツなのではないかとひらめいたんです。そのひらめきが正しいのか裏付けをとるために文献を読み込んだり、人形浄瑠璃の資料映像を観たりして「やっぱりそうだ!」と確信しました。歌舞伎には客席から見えないところで演奏する「陰囃子(かげばやし)」というものもあり、芝居の情景や人物の出入りに合わせて、場面に応じた音楽をループで演奏しているんです。現代のドラマやアニメでも、ここぞという場面で情景や人物のキャラクターに合った音楽が流れ出しますよね。
※鼓や笛、三味線で奏でられる歌舞伎や能などの伴奏音楽

さらにわかりやすいのは、高校野球の応援のブラスバンド。チームがチャンスを迎えた時や打席が変わった時などにいくつかの曲をループして演奏します。これら日本独自の音楽感覚がお囃子から始まっていると気づけた瞬間は、モヤモヤが一気に晴れたような感覚でしたね。これからは「お囃子と同じ」と一言で表現できるわけですから。
きっと私は音楽が好きというより、音楽が人にどう扱われているかということや音楽がもつ意味を考えるのが好きなんだと思います。通勤中も駅のホームで「なぜここでこの音楽が流れているんだろう?どこから流れているんだろう?」と気になったり(笑)。でも、現代文化の研究では、そういう見過ごされがちな「当たり前」に目を向けることこそ大切なんですよ。

文学部 日本学科 講師
今田 健太郎 先生
Kentaro Imada
研究分野
音楽学、メディア研究
担当科目
日本文化論Ⅱ、視覚メディア演習Ⅰ、
聴覚文化論

主に大衆芸能における伴奏音楽や、日本と欧米の音楽感覚の違いについて研究しています。さらにそれらを発展させ、マンガやアニメなどのメディア表現についても扱っています。このような研究領域では、見過ごされがちな「当たり前」に目を向けることが大切。慣れ親しんだ「当たり前」に疑問を持ち、それを言語化するという知的な試行錯誤こそ、現代文化研究の醍醐味です。そうしたことに興味があれば、ぜひ日本学科にきてください。

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