食から考える釜ヶ崎 2022年度社会調査実習の取り組み
2022年6月24日
四天王寺大学社会学科では、中高の教諭免許(社会、地理・歴史、公民)の他に、認定心理士や博物館学芸員など、さまざまな資格の取得が可能です。
社会調査士は社会学科で取得可能な資格の1つで、企業や行政など、さまざまな組織で今後重要になるであろう、社会調査に関する能力を認定するものです。
社会調査士資格の取得には、調査や統計等に関わるいくつかの関連科目の履修が必須になります。授業「社会調査実習」は、履修した関連科目の総仕上げとして、一定のテーマの下で、自分自身で調査の企画を立てて実施し、報告書を作成する、という内容を中心に構成される授業です。
社会調査実習の概要
一昨年度は、コロナ禍が始まった年であったこともあり、学期当初から極めて不透明な状況から出発せざるを得ませんでした。そこで、外出せずともある程度調査可能な、日常の食を出発点にした調査を企画し、その背景を探る形で調査を行いました。昨年度は、刻々と変化する感染状況を見計らいながら、最終的に大学が立地する羽曳野市を中心的なフィールドとして「食」をテーマに報告書を作成しました。
他方、社会学科では、四天王寺とも近い大阪市西成区の通称「釜ヶ崎」地区に関するフィールドワークを2015年から恒例の企画として行ってきており、昨年11月には、やはり感染状況が落ち着いてきた中で、同フィールドワークを実施しました。
そこで、本年は、過去2年間行ってきた「食」というテーマと、「釜ヶ崎」を融合する形で、「食から考える釜ヶ崎」を社会調査実習の統一テーマとし、活動を行うことにしました。
コロナ禍での社会調査実習 日常の食を出発点にした社会調査
大阪市西成区にある通称「釜ヶ崎」地域について、本年度の多くの履修者の皆さんは今まで何らかの形で場所や名前を聞いたことはあるものの実際に行ったことはないというのが現状でした。夏学期の授業前半では、地理、歴史、社会学の観点から釜ヶ崎という地域について学び、大阪文化の1つである芸能の歴史との関係から、あるいは、貧困問題や生きづらさに関する社会問題との関わりから、また、国際化やジェントリフィケーションと呼ばれる、近年のこの地域の急速な変化について学習しました。
授業は基本対面で行っていますが、緊急時や復習のための録画の必要からオンライン(Zoom)も併用しています
5月末には、フィールドワークという形で、旧てんのじ村周辺、三角公園、旧あいりん総合センター跡地、そして、近年の変化の象徴であるOMO7周辺をめぐりました。現地では、地域の方々から、釜ヶ崎の現状と変化、それに対する貴重なご意見を伺いました。
本学あべのハルカスサテライトキャンパスでの事前学習 地理的な観点からの地域の把握が容易に可能です
フィールドワークの様子(旧てんのじ村周辺、南海天王寺支線跡)
フィールドワークの様子(山王市場通商店)
そして、本年は釜ヶ崎地区で多様な活動をされているココルームにご協力頂き、その活動全体のご紹介とともに、「まかないご飯」を体験させて頂きました。
ココルームでの体験学習
通常の食料支援活動は、提供者と被提供者という一方的な関係になってしまいがちだといいます。対して、ココルームで行われている「まかないご飯」の活動は、提供者、被提供者がともに生きづらさや悩みを抱える中で活動に参加すること、そして、お互いに食卓を囲み交流を深める中で、個人として、また、お互いの関係性が変化していくという点に特徴がある点を説明して頂きました。
ココルームでの体験学習
受講者の皆さんからは、次のような感想が寄せられました。
釜ヶ崎に対して怖いイメージがあったが、フィールドワークに参加することでそのイメージが変化した。今まで、偏見を持って地域をみていたことに気が付いた。実際に現地を訪問し、話を聞くことの重要性を認識した。
安易に「問題を解決する」と考えるのではなく、多様なあり方を認め、寄り添うという考え方を学んだ。
自分自身が日常で支援される側にいるが、「まかないご飯」を支える思想を聞いて、多様な生きづらさを抱える人々がお互い一人の人間として向き合うことについて考えるきっかけとなった。
フィールドワークの様子(旧あいりん総合センター、OMO7大阪by星野リゾート)
フィールドワーク後は、振り返りとともに、「今まで食べたものの中で一番おいしかったもの」をお互いに考え、語り合うワークショップや、それをふまえて「食」に関するテーマを、学術的な調査としてどのように設計することができるのかに関する授業などが行われました。
食に関する理解を深めるワークショップ
地理、歴史、人類学、社会学など、四天王寺大学社会学科ならではの多様な角度からのアプローチをふまえながら、受講者の皆さんには、今後の具体的な調査企画を考えて頂く予定です。
また、今回のフィールドワークには、聴覚障害がある学生の方にも参加して頂きました。授業での試行を通して、誰もが参加できる社会調査のあり方を考えることも1つのテーマです。
誰もが充実した人生を送ることができる社会の実現と、学生の皆さん全員の将来の活躍に向けて、社会学科の日々の運営に取り組んでいきたいと思います。
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