河内漢詩名所「青渓」――漢字文化ゼミ 漢詩解読と実地調査2022 その1
2023年1月17日
曲曲と青渓 転じ 奇峰 次第に生ず
――川はクネクネと青渓で屈曲し、山の景色が次々に展開する――
漢字文化ゼミでは、明治~大正に生きた藤井寺の漢詩人・岡田松窓(おかだしょうそう、1864-1927)の漢詩を解読し、その詩に詠まれた現地を訪れ、解釈と風景とを併せ見て理解を深め、古くて新しい「名所」の発見に努めています。
岡田松窓
令和4年度は11月19日に、青渓(大和川上流、柏原市)と河内国分を訪れ、解読した二首「游青渓(青渓に游ぶ)」「国分駅」と現地の様子を観察しました。この「その1」では「青渓に游ぶ」(五言律詩)を紹介しましょう。
「游青渓(青渓に游ぶ)」(明治22年〈1889〉作)は、大和川が河内国分の東方でS字型に屈曲する青渓あたりを、詩人(松窓)が上り下りして船遊び(クルージング)を楽しむ様子を詠んでいます。
游青渓 青渓に游ぶ
曲曲靑溪轉 曲曲と 青渓 転じ
奇峯次第生 奇峰 次第に生ず
林深新樹暗 林 深く 新樹 暗く
村遠夕陽明 村 遠く 夕陽 明るし
鷺立䙰褷影 鷺 立ちて 䙰褷たる影
魚跳潑剌聲 魚 跳ねて 溌剌たる声
扁舟纜出峽 扁舟 纜(ともづな)は峡を出で
綠水接空平 緑水 空(そら)に接して平らかなり
【現代語訳】
川はクネクネと青渓で流れを転じ、
面白い形の峰みねが次々に見えてくる。
〔岸辺は〕林は茂り、若葉の木々は木陰を作り、
村里は遠く遥かに、夕陽は明るく照り輝く。
鷺の羽うつくしく立つ姿、
魚のピチピチ撥ねる音。
一艘の小舟は 纜(ともづな)が解かれて山峡を出て、
緑の川は天空に接して水平に流れてゆく。
以下は、現地調査を踏まえて学生が作成した鑑賞文です。これに沿って船遊びの気分をすこし味わってみましょう。
首聯(第1・2句)は、舟で青渓を遡る詩人に見えてくる景色――川がくねくねと形を転じて流れ、さらに遡(さかのぼ)ると面白い形をした峰みねが次々と見えてきます。
頷聯(第3・4句)は、岸辺の様子や振り返って遠く下流の村が見える様子――木々が生い茂り、下流の村に夕陽が輝いています。
頸聯(第5・6句)は、乗船中に出会う生き物の様子――鷺が美しく立ち、魚がピチピチ跳ねています。
そして尾聯(第7・8句)は、山峡を抜け出て広い平野へ下ってゆく様子。ここは、読むだけではイメージがつかみにくいですが、実景を見るとよくわかります。――流れる川が青緑色に映え(緑水)、空と接する所まで川と空とがどこまでも平行に伸びていく、その様子が「空に接して平らか」なのでしょう。
明治20年代の大和川の船遊び、いかがだったでしょうか。豊かな自然とそれを楽しむ余裕とが感じられますね。大和川もすこし上流にいけば今も山々に囲まれた美しい峡谷です。一時期に比べて随分きれいになった大和川。クルージングが復活すればきっと新しい「名所」になるでしょうね。
続く「その2」もご覧下さい。
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