あなたも小説を映像化してみませんか――中学校の国語科学習指導のこころみ



この夏学期の2年生向け開講「国語教育論A」では、3年生の本格的な教職関連科目への下地作りとして、多様な角度から言葉で考える国語の授業を考えました。

その一つ、タイトルシークエンス(まず少し映像が流れ、その後、タイトル画面が出てくる映像作品の始め方)の絵コンテ作成を活用した創造的な小説読みを紹介します

題材は、教育実習でも取り上げられる中学校2年の小説教材、三浦哲郎の「盆土産」です。東京の出稼ぎ先から、急に盆休みに帰省すると父から連絡が入る。その速達には、「土産は、えびフライ。油とソースを買っておけ。」とあった。ところが、父を迎える、祖母も、姉も、語り手の弟も、えびフライを見たことも食べたこともない。東京から持ち帰った冷凍えびフライをめぐって、亡き妻(であり、亡き母)の墓参を挟み、たった1泊の父の帰省の物語が語られる、そんな作品です。

この小説を通して、日本学科2年生が、国語科ならではの言語体験を考えました

1.原作の導入部のていねいな再現をこころみたタイトルシークエンスの例2つ

【A】
 
【B】

AもBも、最初の2カットで、父のために魚釣りをする語り手(少年)を描き出します。Aは、田園の中、川へ向かう少年を遠くからとらえたロングショットに始まり、第2カットで、少年の後姿を映し、視聴者と少年の視線を重なる工夫を試みたそうです。一方、Bは、うっそうとした木々を下から仰ぎ見るように映し、次に、まるで木々が見下ろしているかのように釣りをする少年が登場します。

両者とも、少年は「えびフライ」とつぶやきます。Aでは、少年の顔が明かされますが、Bでは、少年の顔は明かされないまま、本編が始まります。あなたなら、どちらの映像を見たいと思いますか。

【C】

Cは、1泊しただけで、急ぎ東京に帰る父親とそれを独り見送る語り手の息子を取り上げた結末部の再現です。なぜ、えびフライを「また」買ってくると言ったのか、その秘密を解き明かす本編が続きます。バス停での見送りまで、どのようなストーリーがあったのか、期待させる演出だということです。 

3.原作には描かれない場面の映像化をこころみたタイトルシークエンス例2つ

【D】

まずDは、父親が、村のバス停に降り立った場面です。山間のバス道の遠景→バス道→車中から降りる人物の足元のクローズアップと続き、最後、えびフライの袋を下げた人物が視聴者に向かって歩いてきます。

原作は少年の一人称語のため、迎えにバス停に行かない限り、こんな父の姿は見ることができません。語り手が知らない、視聴者だけが知っている秘密のシーンです。

【E】

つづくEには、大人になった語り手が登場します。

いま釣りをしている少年、岩の上で鳴くカエルという原作の導入場面の再現のなかに、電車に揺られる大人になった語り手がすーっと入り込んできます。すると、最後の第4カット、「えびフライ」とつぶやくのは、いったい誰でしょう。不思議な思いを抱きつつ、本編が始まっていきます。

ご紹介したのは、2年生作品のほんの一部です。家族でお盆の墓参りをする情景をとらえたもの他、さまざまな工夫が見られた力作ぞろいでした。

語り手の見るもの、聞くもの、味わうもの、触れるものが次々に語りだされる一人称の原作を映像化しようと思ったとたん、まず何を決めなければならないと思いますか。そうです、語り手です。どんな語り手にするか、自分なりの語りの視点を設定し、物語を再構築していきます。この創造的な読みの体験が、一人称で語り通し、物語を作り上げた作者に出会いなおす手がかりとなるのです。

興味のある方は、一度、お気に入りの作品の映像化を考えてみてはどうでしょう。

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