時代を超えた智恵を求めて ~四国遍路を巡る~
2019年1月29日
9月15日から3日間、仏教文化研究所の研究員として、奥羽・中田は四国巡礼の旅に4人の学生有志と共に行ってまいりました。台風の影響で日程の変更がありと、旅の開始から多少の波乱はありましたが、初日の15日は御仏のお導きのおかげか、快晴の天気に恵まれました。今回の報告では、四国遍路をご紹介するとともに、その旅に行って我々研究員が感じたこと、そして共に参った学生が体験し、感じたことを紹介したいと思います。
先ず、四国遍路は1,200年以上の長い歴史を持ち、現在も1年間に数万人以上の人々が訪れる日本でも有数の霊場です。その範囲は四国4県にまたがり、距離としておよそ1,200キロのとても長い道のりがあります。別名「四国88カ所霊場」または「お四国」とも呼ばれ、お大師様(弘法大師・空海)が修行した足跡をたどりご縁のあるお寺を巡拝することを指します。実は、そのお大師様は四天王寺で修行したこともあり、聖徳太子とは深いご縁があります。同じく四天王寺(大学)で学んでいる我々にとって、ある意味、先輩と言えますね。(ちなみに、興味深いことに真言宗ではお大師様は聖徳太子の化身という伝説すらあります。)
今回の旅は、学生からの「四国遍路に行ってみたい」という希望と仏教文化研究員として「仏教の聖地を訪れて学びたい」という双方の思いが一致して実現したものでしたが、そこで体験し得られたものはまさに不思議体験の宝庫とも呼べるものでした。
四国遍路の入り口は徳島県の1番霊場「霊山寺」ですが、ここの「発心」の入り口に入ったとたん、研究員の我々と学生有志の気持ちが一気に引き締まりました。お寺の敷地内のあちらこちらから聞こえる読経の声、みなが当たり前のように身につける白衣(びゃくえ)、そして誰も無駄なおしゃべりをしない静寂な空間など、明らかにこれまで自分たちが存在していた世界とは全く異質な世界へと入った瞬間だったのです。
1日目でお参りできたお寺の数はおよそ5ケ寺ほどでしたが、そのすべてのお寺で、山門前での一礼から始まり、手水で口をすすぎ、線香とローソクをあげ、本堂と大師堂で賽銭をあげた後には般若心経を始めとした勤行(読経)といった参拝の作法を怠りなく行いました。その際にはもちろん、感謝と共に自分の願いをご本尊様とお大師様に伝えます。皆が普段経験しない世界で初めての霊場参りを先達である我々研究員を見ながら行い、宿泊所についたときはクタクタになりました。
さて、2日目以降からは粛々とお寺への作法に則ったお参りを行いますが、お寺参りを重ねる毎に学生の顔つきが少しずつ変わっていきます。そして、以下のような言葉を発し始めました。
「身体が重いけど、本堂や大師堂で読経するととても気持ちいい」
「意味不明な汗がすごく出る」
「こんなに温かい親切を受けていいんですか」
「挨拶って気持ちいいですね」
四国遍路は「同行二人」の旅とも呼ばれ、巡拝中は常にお大師様が傍にいてくださります。この「同行二人」は遍路を経験したことのある方であれば、「誰かに見守られている感覚」として誰もが経験すると言われており、常日頃から人は自分一人だけで生きているのではないという戒めでもあります。読経中の意味不明の汗は体中の不浄なものが浄化される現象として多くの方が経験するものです。読経が終わると汗も止まるという現象は摩訶不思議です。
また、お遍路さんが四国の人々から受ける親切である「お接待」は、「見返りを求めない心からの贈り物」であり、四天王寺大学の「利他の心」と通じるものです。道すがらお茶やお菓子などを地元の人々からいただき、学生は申し訳なさを感じるとともに心のぬくもりをいただいたようで、彼らの顔がとても優しくなっていました。そして、「挨拶」の素晴らしさを実感した学生もいました。四国遍路は修行の旅でもありますが、その修行の1つに言施(温かい言葉をかける)というものがあります。単に日常の挨拶だけでなく、相手を気遣ったことばを施すことで、どれだけ人は救われるのでしょう。身をもってそれを体験した学生さんはこれから「挨拶」や「温かい言葉かけ」を率先してしたいと話してくれました。
2泊3日の四国遍路の旅は、徳島のおよそ20ヶ所のお寺を参って終えました。最後のお寺では、学生は読経しながら「言い表せない寂しさに押しつぶされそうになる不思議な重み」を味わい、それを心に刻んでから帰途に就いたようです。そしてもちろん、我々仏教文化研究員もまた、様々な学びを得ることができました。特に、利他の心としてのお接待は本当に大きな心の交流かつ癒しであり、そうして「感謝」の心を学ぶのだと学生を目の当たりにして実感しました。また、「同行二人」や「挨拶(温かい言葉がけ)の大切さ」といった人の生きる道に通ずる考え方はまさに現代の若者たちに必要なコンセプトではないかと考えます。そして、それらこそが時代を超えた智恵(智慧波羅蜜)と言うべきものでしょう。今後、より多くの四天王寺大学の学生に体験してほしいものです。
その後、学生たちはゼミコンテスト及び「仏教Ⅱ」で、彼らが体験したこの四国遍路について英語でプレゼンテーションを行ってくれました。とても自信に満ちた堂々たる発表で、彼らの大きな成長を感じさせてくれました。日本の仏教の聖地・四国は本当に多くの財産を学生に与えてくれており、時代を超えてなお存在する古き良き仏教文化の偉大さを実感することができました。これもまた、アクティブラーニングですね。
報告者:仏教文化研究所研究員 奥羽充規
