人文社会学部 日本学科 -最新情報-

森嶋先生の研究旅行レポート−−ドイツの産業博物館と負の遺産

 今回は、地理学がご専門で、日本学科では「観光文化地理」・「日本の世界遺産」・「近代日本の産業遺産」などの科目を担当されている森嶋先生の研究旅行レポートを掲載します。

2016年2月、ドイツに研究旅行に行ってきました。ここでは近代化産業遺産の保存活用という観点から、見どころを紹介したいと思います。

1. 産業博物館

歴史的に新産業育成を常に重視した政策を採ってきたドイツには、各地に巨大な産業博物館があります。ミュンヒェンのドイツ博物館は、ドイツ最大の博物館で、その規模はフランス・パリのルーヴル美術館やイギリス・ロンドンの大英博物館に勝るとも劣らず、1日ですべての展示を見ることは難しいほどのものです。

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↑ ミュンヒェンのドイツ博物館の外観

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↑ 鉱山展示室では過去に使われた機械が再現坑道の中に展示されています。

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↑ 電力展示室では雷発生装置の実演を行っており、現地の社会科見学と思しき学生が多数見学する中、巨大装置を使った大実験が公開されていました。

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↑ 身近な産業、例えば玩具の展示室なんかもあります。

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↑鉄道操車場跡地に建てられた施設なので、ドイツ博物館に比べ鉄道に関する展示が充実しています。

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↑昔ながらのビール工場の再現です。

国として産業の重要性や面白さをどうやって国民に伝えていくかという点についてどう工夫を凝らしているか、色々考えさせられます。実際に行って比較してみると日本における国立科学博物館などの展示がこれらの博物館の影響を強く受けていることもよくわかります。

2. 企業博物館

世界有数の技術立国であるドイツでは、世界的規模の最先端企業が競うように巨大な博物館を建設し、製品を展示しています。中でも代表的なシュトゥットガルトのベンツ博物館を見に行ってみました。

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↑ベンツ博物館の外観。大きい。

入場料を払って中に入ると何カ国語ものオーディオガイドがあります。日本語もありました。

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↑創業時から現代まで、過去に作ってきたありとあらゆる車が展示。マニアにはたまらないんだろうなあ……。

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↑昭和天皇が実際に使っていた車

企業が博物館を通じて社会の中で自身をどうアピールしているか、またなんのためにアピールしているか、考えさせられます。 

3. 負の遺産

日本と同じく第二次世界大戦の敗戦国であるドイツには、戦争に関連する数多くの負の遺産が残されています。今回はミュンヒェン郊外にあるダッハウ強制収容所跡を見に行きました。

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↑「働けば自由になれる」アウシュヴィッツなど、ナチス・ドイツの強制収容所の入口にはこの言葉が彫られていました。

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↑朝礼で収容者が集合させられていた広場です。

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↑旧労働棟の中はパネル展示が設置され、多くの学生があちこちで説明を聞いています。

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↑居住棟に再現された収容者用3段ベッドです。

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↑壁のないトイレです。

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↑慰霊のために設けられたユダヤ教のシナゴーグです。

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収容所の敷地外に建てられていた毒ガス室です。ダッハウの毒ガス室は実際にはほとんど使われていないとのことです。とはいえ、多くの人がこの収容所で餓死したり、病死したり、殺されたり、といった形で死亡しており、毒ガス室に隣接した死体焼却場ではそうした死体が「処理」されました。

ドイツには他にもナチス関連施設やベルリンの壁など「負の遺産」が数多く残されています。いずれも負の遺産の持つ「ホンモノにしか持てない力」を、未来のための学びにどう活かしていくか、考えさせられる場所です。

4. 世界遺産登録を抹消されたドレスデン

ドイツ東部の都市、ドレスデンは2004年に世界文化遺産に登録されましたが、2009年に登録抹消されてしまいました。今回そのドレスデンを訪問したのは、登録抹消の原因となった橋を見に行くためです。

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ドレスデンはかつてのザクセン王国の首都で、中世の建造物が数多く残っていることから世界遺産に登録されました。しかし世界遺産登録後、市内を流れるエルベ川に架橋計画が立ち上がりました。市内の交通渋滞が慢性化し、対策が求められていたためです。これに対し、世界遺産委員会をとりまとめるユネスコは「橋をかければ景観が破壊されるので世界遺産登録を抹消する」とドレスデン市に警告しました。架橋をめぐる住民投票が行われ、架橋賛成派が勝利し、実際に橋がかけられた結果、ドレスデンの世界遺産登録は本当に抹消されてしまいました。

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↑これがその橋です。利便性を取るか、世界文化遺産として登録されることを取るか、開発と保全のバランスについて考えさせられます。

私の研究テーマである「産業遺産の保存活用」において、ドイツは最先進国といえます。遺産の保存と観光開発、負の遺産を含んだ様々な文化遺産をどのようにして残し伝えていくべきか、世界遺産登録の意味とは。様々なことを考えさせられる旅行でした。

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